きっとここから動く。

「理想の姿」に向かって共に歩むパーソナルトレーナー、相支走愛(神戸)の野見山健治です。

  

今日は大阪国際女子マラソンが行われました。
今年のパリ五輪に向けた日本代表最後の1枠を争う選考大会のひとつ。つまりはここで「好記録で」勝つことが唯一の道。
記録だけでなく順位も求められるという非常に難しい条件の中、有力選手として注目を集めていたのは佐藤早也伽選手、松田瑞生選手、そして前田穂南選手の3選手でした。

 

レースのふたを開けてみると、5kmを過ぎたところで先頭集団に入っている日本の選手は先に挙げた3選手のみ。国内日本最高記録が狙えるようなハイペースの展開についていける選手は他にいませんでした。

 

前半はほとんど動きはないまま、ハーフ地点を過ぎたところで大きな動きが。
坂に入ったところで一気に仕掛けたのは前田選手。ペーサーを置いていく走りで先頭に。流れで押し出されたというより、完全に自分で仕掛けた感じでした。

誰もここから動くとは思わなかっただろう。

 

実際にこの早い段階での仕掛けに不意を突かれたのか、集団の他の選手はついていかず(いけず?)。
松田選手は集団からも遅れていく。ペーサーは若干追おうとする様子を見せましたがおそらくディレクターと思われる人に「おさえろ」と言われている感じで、集団もそれに合わせた形で差を詰めることが出来ず。

 

というより、差を詰めさせない前田選手。

 

  

 

集団に残った佐藤選手も30km手前から苦しい様子で追うのは難しく。その後集団から抜け出したエデサ選手が31km過ぎで先頭に立つも、前田選手はしっかりと背中を追い続けていいペースを維持し続ける。この粘りが素晴らしかった。

 

最後までその差を詰めることは出来ませんでしたが、一定の間隔は保ち続け終盤も大きく崩れることなくそのままゴールへ! 

結果、前田選手は2時間18分59秒!
 

この記録は2005年以来動かなかった日本記録の更新となりました。これでオリンピックの代表権獲得に大きく前進をしたといえるでしょう。

 

3位(日本選手2位)に続いたのは早い段階で遅れていった松田選手。大崩れせず23分台でまとめるのはさすがの強さ。
その悔しさは私には想像もつきませんが、しっかり走りきった力強い姿に大きな勇気をもらいました。攻めていた佐藤選手は残念ながら終盤ペースを守ることが難しくなり自己記録更新にも届かず。それでも「出し切った」という姿からはいろいろなものを感じました。

 

見どころのある面白いレースでした。

世界と戦うために

今の世界水準だとネガティブスプリット(後半にペースを上げる)というのは常識となっています。スパートがかかるのは概ね30~35kmくらいが多いですが、そこまではウォーミングアップという名のサバイバルゲーム。勝負の土俵に立つための権利を掴むためのふるい落としという感じです。
 

 

男子の世界記録が出たときの後半のペースは30kmから5km毎に13分51秒ー14分1秒。(10kmが27分52秒)

参考までに10000mの男子日本記録は27分9秒。トラックとロードという違いはありますが、日本の男子10000mの上位100傑で27分52秒より速い記録を持っているのは歴代で71名のみ(24年1月28日時点)。

 
 
女子の世界記録は2時間11分53秒と今の日本からすると10分近く速いので比較になるかはわかりませんが、やはり後半はペースアップしており30km以降の5kmSplitは15分30秒前後で走っています(ちなみにこのレースでは序盤から15分40~59秒という超ハイペースでそのまま駆け抜けた感じです)。

 

女子5000m日本記録は14分29秒ではありますが、女子の上位100傑で15分25秒以内は82人しかいません。
男女ともにこのスピードを35km以降で繰り出されたら…勝ち目は少ないですよね。

 

だからこそ、日本選手が勝てる可能性というのは、先日のMGC男子で川内優輝選手が見せたような序盤から独走パターンか、今日の前田選手の早めのロングスパートなのではないかと感じます。(簡単にそうさせてくれないのはわかってますが)
一瞬のキレや絶対的なスピードよりはまだ可能性があるのではないか…と。是非かすかな可能性をこじ開けて、頂点を争うようなレースを見せてほしい。

 

ここから動く予感

男子の日本記録も2002年以来長らく動きませんでしたが、18年に設楽悠太選手が更新してからは大迫傑選手(※2回更新)、鈴木健吾選手と相次いで更新しました。
また日本記録に届かないにしても2時間5分台、6分台の選手が続々と続きました。一時期「サブテン(2時間10分以内で走ること)」でさえあまり目にしない時期があったことを考えると、大きな変化があったということは間違いありません。

 

シューズ機能の向上、トレーニングの質が変わったこと、補給の改善なども要因ですが、何よりもメンタルブロックを崩したことが大きな影響を及ぼしていると考えています。

身近でレースをしたことがある、練習をしている選手が達成したことで「自分にも出来る」と明確なイメージを持つことが出来たのではないでしょうか。
過去の記録とか「見たことがある」というようなものを漠然と目指すよりは、挑みやすさやイメージのしやすさが格段に上がると思われます。

 

ここ5年ほどで男子で起こった流れが、今後女子にも起こっていけば世界との差を少しでも縮めていくことに繋がるのではないでしょうか。
国内でももっと面白いレースが増えてくるかもしれません。というより、そう信じたい。

 

まずは3月に行われる名古屋ウィメンズマラソンが楽しみとなりました。


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