「理想の姿」に向かって共に歩むパーソナルトレーナー、相支走愛(神戸)の野見山健治です。
マラソンのトップアスリート(特に男子)に好記録が続出しているのは先日触れました(参考記事:変わった「当たり前」の風景)。
では市民ランナーには全く関係のない話でしょうか。
私はそうは思いません。
全てやり方、考え方次第で越えたい「目標」というハードルを下げることは可能だと考えます。
よく見る目標の置き方
たとえばサブスリー(フル3時間以内)やサブフォー(フル4時間以内)は市民ランナーにとっての一つの大きな区切りになります。
今日はサブフォーを1つの例にして話を進めます。
サブフォーを目標に据えるというのは、そのペースで走ることを意味します。
当然の流れです。
(ただ一点勘違いしないでほしいのはゴールした時の平均タイムがこのタイムを上回ればいいわけですから、このペースで一定で走る必要があるわけではないということ。一定で走ることは非常に難しい。)
そのペースで走ることを「100%」のパフォーマンス目標にしていないでしょうか。
サブフォーなら平均で5分40秒/km程度が目安となります。
おそらく、そのペースを練習の基準とするでしょう。
ペース走もそれを軸に考えていませんか?
よく聞くのが「レースペースで10km(20km・ハーフなど)走れるようになった」という言葉。
もちろんそれは大きな進歩です。
ただフルマラソンという競技は別物です。
もしそのペースで42km走れるなら十分可能性はあるでしょうが、本番前の練習でフルマラソンと同じ距離をそのペースで走るという方はほとんどいないでしょう。
長くても一般的に勧められている30km走というところでしょうか。
この時「余裕」で走れないと、本番で実現できる可能性は極めて低いでしょう。
というのも、本番でいつも通りのパフォーマンスが発揮できる可能性そのものが高くないからです。
先に触れた通り、そもそも一定ペースで走り続けるというのは容易ではありません。それ以上のペースで走る走力が無ければ達成は難しいでしょう。
(経験からフルマラソンを4時間で「一定ペースでコントロールして」走りきるためには3時間30分程度で走れる走力は必要だと考えます。)
そういった走力を一旦置いておいて、別の側面から考えます。
まず一般的なランナーからすると、本番は練習とは違うスケジュールになりやすいです。
起きる時間や走るまでの時間の過ごし方、食事や移動を同じにすることは難しい。さらに当日の気候やコースを同じにすることは人の力では不可能です。
緊張や気持ちの高ぶりによって、パフォーマンスが上がる人もいれば下がる人もいます。
周りの流れに振り回されてしまうかもしれません。
そこに自らの「思い」が加わるとさらに難易度は上がっていきます。
そしてスタート時間までの過ごし方が制限されることも難しさを高めます。
今までの大型大会の主流となっている流れでは、一定時間までに荷物を預けることが求められます。荷物を預けた後でもエネルギー補給を出来る準備をしている人は多くありません。
仮に2時間前に預けるとして、荷物預けの直前まで食べ続けていたとしましょう(そんな人も多くないですが)。
走り出して4時間でゴール。
つまりこの場合でも食後6時間は食事による補給が出来ないことを意味します。自宅や宿泊先で食事を済ませた人はそれ以上の時間になるわけです。
これらが引き起こすエネルギーの枯渇が俗にいう「30kmの壁」という形で現れることもあります。
ではどうすれば目標クリアに近づけるでしょうか。
目標というハードルをクリアするために
「練習で出来ないことは本番で出来ない」
これは私が合唱をしていた頃に、指導していただいたピアニストや指揮者、トレーナーの先生方にも口酸っぱく言われたことです。
どんな道でもその通りだと思いますし、今私がトレーニングを指導する中でも伝えていることです。
裏を返せば「練習で出来ること」を増やせばいいのです。
ひとつひとつ出来る事を増やしていくことで、今は100%のパフォーマンスである内容を80%でも達成できるようにしていく。
その積み重ねが目的へとつながっていくのです。
具体的には、仕事が休みだったり、この日は走る!と決めている日は大会当日を想定した起床・食事時間・メニューをとって、同じような流れで行う。
捕食にジェルなどを用意する予定の場合は、同じものを試してみる。シューズやウェアも然り。
どんなに素晴らしいものも「初めて」は身体にとって違和感になります。
身体に経験値としてどうやって刻むかは非常に重要です。
次に練習の内容。
今距離に不安があるなら(ほとんどの場合は距離というより運動継続時間の場合が多い)、長時間・距離を動き続ける運動をする。
少なくともフルマラソンで想定しているゴール時間と同等以上は動きたいですね。
走ることにチャレンジできれば良いですが、その際はペースを設定した時間なら必ず走りきれるように設定してください!(ここ重要)
5分40秒という数字にこだわりすぎたらいけません。時間を走りきることが目的なので、8分とかでも良いのです。
走ることが難しいのであれば、歩きでもいいでしょう。
街歩き(ウィンドウショッピングとか)や自然が好きな方なら山歩きなどでも構いません。好きなことであれば4時間程度はあっという間に過ぎてしまいませんか?
その時間をとにかく動き続けます。
休憩を入れても良いですが、座って「よっこいしょ」をしないようにしてください。立って歩くことを休むだけにします。
そうすることで、長時間動き続ける能力は高まります。
もし立ち仕事や外回りの業務をしている人であれば、「今は練習中だ」と考えてみてください。
忙しくて走れない日があっても、「今日は良い練習が出来た」と自分に言い聞かせることができます。
現に私は以前15時~5時(休憩60分)というシフトで調理現場に立っていたことがあります(いろんな意味でアウトっぽいけどw)。
かなり身体もしんどかったですが「10時間以上動く練習だ」と考え、ウルトラマラソンの下地を作ることが出来たと思っています。
最後にペースに対しての不安。
こちらに関してもスピードに慣れることが必要です。
「5分40秒なら寝てても走れるぜ」くらいの余裕が欲しい。
距離の長短は抜きにして、少なくとも5分以内のペースであればいつでも走れるくらいに慣れている必要があるでしょう。
たとえば5kgのダンベルがあったとします。
決して軽いものではないですが、10kgのダンベルを持った後に5kgを持ったらどうでしょうか。
軽く感じることでしょう。
ペースも同様です。
速いペース(5分)を知ることで、基準ペース(5分40秒)に余裕が出てきます。
距離は短くても良いので、そうした動き・ペースに慣れてください。
慣れてきたら時間・距離を少しずつ長くしてみる。そういう風に段階を経ていきます。
現在長距離界を席巻しているケニアやエチオピアの選手の練習法として、ペースと動き重視のやり方があります。
どういうことかというと、3分ペースを基準としたとします。
思った通りのイメージで走れるところまで続けるだけ。
乱れたら終わり。
たとえ3kmで終わっても「今日は3kmまでいけたから良い練習だ。」
そういう思考で終われるのです。
繰り返す中でその距離が次第に延びていくのです。
距離ありきではなくその動きをどこまで続けられるかということに重きを置いているやり方です。
もちろん一番向いている方法というのは一人一人違います。
ただこういうやり方もあるぞ、というのは知っておいてほしいです。
10kmのつもりが5kmで終わった場合に「走れなかった」と思って終わるのは、せっかく頑張って走り出したのに残念過ぎます。
5km出来たことにポジティブな思考と目線を置く、実に前向きな考え方だと思います。
つまづきがちな方は特にやってみてほしい。
こうして「出来ないわけはない」という強靭なメンタルを作り上げていきましょう。
あなたの目標というハードルを下げるお役に立てれば嬉しいです。