変わった「当たり前」の風景。

「理想の姿」に向かって共に歩むパーソナルトレーナー、相支走愛(神戸)の野見山健治です。

 

別府大分毎日マラソンや大阪マラソンのように、エントリーしていた全てのランナーが出場できなかった大会がある一方で、東京マラソンは陰性証明が出来ることで出場が出来、大型の都市型大会としては久しぶりの全国区の大会となりました(参考記事:改めて思う)。

 

 

いろんな意見があると思いますが、これらをきっかけとして今後は前向きに進んでくれることを願います。
イベントなどだけでなく、身の周りのことも…ね。


 

 

さて、先に挙げた3つの大会を見ていて特に印象的だったこと。
それは男子選手にとって、サブテン(2時間10分以内でフルマラソンを完走すること)が当たり前になったということ。

別大ではMGC出場権が6名一気に誕生

 

一時期はサブテンは非常に高い壁としてトップランナーの前に立ちふさがってきました。
達成するだけで翌日のスポーツ紙一面に載るほど。

 

サブテンは難しいという「当たり前」がありました。

  

ところが、2022年に入って開催された別大ではトップの西山雄介選手(2時間7分47秒。しかも初マラソン!)を筆頭に上位8名。
大阪マラソンでもトップは初マラソンの星岳選手(2時間7分31秒)で、上位14名がサブテン達成。うち9名は2時間9分以内という非常にハイレベルな記録でした(個人的に印象的だったのはMGCを出場権を獲得した岡本直己選手と今井正人選手のハイタッチ!)

 

大阪でもMGC出場権を7名が獲得(うち1名ワイルドカード)

 

東京マラソンにおいてはトップの鈴木健吾選手は自身の日本記録に迫る2時間5分28秒!
それ以外でも日本人選手上位20名がサブテン達成。
サブテンって簡単なの?と錯覚するほど…

 


では、以前のサブテンがなかなか現れなかった時代のランナーのレベルが今より低かったのかというと、実績や持ちタイムを見てもそういうわけではありません。

 

 

確かにここ最近は中学・高校世代も含めて、各種目でタイムの水準が上がっている事実があります。

その背景には昨今言われているシューズの恩恵のほか、トレーニング内容のレベルアップ、栄養面のサポートや環境が整ってきたことなど複合的な側面があることは予想できます。

 

これらが絡み合って好タイムに繋がっているというのは間違いない事実でしょう。

 

 

ただ私は、それ以上にランナー自身だけでなく周囲の準備にもあったのではないかと考え始めました。

 

サブテンが高い壁とされていた頃、サブテンを達成するための練習となっていたのではないかと。

 

100%の位置

東京マラソンの序盤の光景を見て驚きました。

 

昨今では当たり前になっているペースメーカー、この大会にも設定されていました。
ペースメーカーはゴールタイムから逆算して、「だいたいこのペースで走ってね」と運営から依頼されているので、特に日本人選手が担当している場合にはそれに限りなく近いペースでレースが展開していきます。

 

男子の第1集団にはなんと2分54秒/kmペース。
ついていったのは世界記録保持者のキプチョゲ選手ら数名の海外の選手(キプチョゲ選手は2時間2分40秒で優勝)。
彼は世界記録更新を狙っていたようで、そのハイペースのペーサーを煽るほど…まさに異次元。

 

 

 

それにも驚きましたが、それ以上に驚いたのが第2集団。

これは第2集団の5km地点付近です。

ペースメーカーに課された設定タイムは2分57秒/kmで、日本記録更新をターゲットとしていました。
その集団にこの大人数がいたのです!

 

 

以前だったら信じられません。

 

キロ3分ペースで2時間6分35秒くらいになるのですが、以前はそれが一つの目安でした。
先頭グループでさえ3分5~10秒のペース設定になることもありました。(しかもそれでも脱落することも…)
それが3分以内にこの集団。

 

彼らがこれを「出来る」と思っている証明ではないかと。

 

実際にこの大会でも先に述べたように20名がサブテンでゴールをしたわけですが、彼らのうち「サブテン」を最高目標にしていたランナーはおそらく少ないのではないでしょうか。

 

それぞれが掲げる100%の目標があり、そこから当日の調子や感覚で多少の調整や下方修正を行いながら走り切った結果がこの数字なのだと思います。

 

 

この流れが出来たきっかけは、十数年動かなかった日本記録が設楽悠太選手によって動かされ、その後も次々と更新がされ4分台にまで入ったこと。
記録には繋がらなくても7分台、6分台の選手がたくさんでていること。
これらのことから「自分にも出来ない理由がない」と感じる。

 

そしてそれを達成するための練習をこなし、当日そのつもりでスタートラインに立つ。

 

こうした流れが強くなってきているのだと思います。

当ブログで何度も触れていますが選手自身の「メンタルブロック」がなくなったことは非常に大きいと考えます。
そして記録に対する抵抗がなくなったことで、以前は厳しいと感じていた質の内容を取り入れるようになったかもしれません。

 

しかも選手本人だけに限らず、周囲のコーチやトレーナー・監督、時には家族の意識も変わってきているでしょう。
それらは物理的なトレーニング内容だけでなく、支える言葉など内面的なところにも変化を及ぼしているはずです。

 

 

 

環境という意味では「MGC」というオリンピックに向けた選考に於いて、明確な基準タイムが設定されていることもその要因のひとつと言えるでしょう。
さらに「JMCシリーズ」も作られ、好記録が代表や賞金に繋がるという道筋が見えていることも関係していると思います。

 

 

こうしたことが意識の変化を引き起こし、選手の力と選手層の底上げに繋がり、記録が向上してきていると思っています。
女子は男子ほどの大きな流れにはなっていませんが、誰かが2時間20分を切ることで一気に動き出す可能性は十分にあるはず。

 

そういう意味でも名古屋ウィメンズマラソンに期待です。

 

 

 

では、このことは「すごいねー」で終わる話なのか。
私は市民ランナーにもある面では当てはまると思っています。

 

長くなったので続きはまた。