認識のズレ。

「理想の姿」に向かって共に歩むパーソナルトレーナー、相支走愛(神戸)の野見山健治です。

 

ちょっと前の記事で、接地においてエネルギーを効率よく得るポイントについて触れました(参考記事:力の構造)。
このポイントを押さえて実践できるようになれば、効率の良い動きを手に入れられると同時に怪我のリスクを下げることができる可能性が高まると考えます。

 

 

その際に少し触れたのがフォアフットの概念。これに限ったことではありませんが、極端な考え方はかえって可能性を狭めることもありますので、注意が必要かもしれません。

今回はフォアフットについてちょっと掘り下げてみます。

フォアフットの認識

どういうわけか日本人の認識では、フォアフットは爪先だ!と考えている方が少なくありません。
これはまじめすぎる(文字通りに受け取る)思考がそうさせるのではないかと考えています。たとえばヒールストライク(踵接地)に関しても同様。本来は私が先日のブログで書いたような踵の「方」(=踵骨)での接地を指すものと思われますが、踵をぶつけるような接地のことと認識している人が多い。

 

こうした真面目「過ぎる」捉え方は、認識のズレを生み出すこともあります。そのズレは本質を歪め、身体に過度の負担となる危険性を高めるので注意が必要です。

 

 

まずフォアフットのフォアとは英語の”fore”ですから、意味としては前部、前の方という意味合いが強いと考えられます。

イメージとしては線で囲んだ場所くらいです。これ「爪先」ですか?

違いますよね。もし爪先にするべきであれば、fore(:前部)→toe(:爪先)という表現がなされているはず。

 

本当に爪先だけで走ってみてください。歩くだけでも、何なら立つだけでも良いです。バレエのルルベ(つま先立ち)のような姿勢が楽にできますか?そのまま動き回れますか?
きっと爪先で走るというのは現実的ではないことがわかるかと思います。

 

 

にもかかわらず、「爪先接地!」なんていうから不思議です。それを意識して小手先で爪先をついて走っていたら、そりゃ怪我もします。当たり前。足底やアキレス腱、ふくらはぎなどに無理な動きをさせているわけですから。

 

フォアフットの考え方

ケニアやエチオピアが陸上長距離界ではとてつもない強さを誇っています。それは紛れもない事実です。そして彼らはだいたいフォアフットに近い走り方をしています。

 

だから「フォアフットを体現出来れば速くなる」なんて、短絡的な結論が出てくるのも予想は出来ます。でも、彼らはフォアフット接地を出来るから速いのではなく、体と競技特性に合った接地を出来るから速いのです。
それにたまたまフォアフットという名称がついているだけ。そしてその動きがトラック長距離やマラソンに必要なスピードと持久力という競技特性を高めるのに向いている動きとされているのです。

 

 

どんなレベルの走者でも接地の際には地面から力をもらうことで推進力に変えています。そのエネルギー変換時のロスを小さくして、少ないエネルギーで効率よく動かせることがランニングエコノミーが高いと言われる状態です。これには体格などもありますが、技術も必要です。
接地とは違う瞬間になりますが、次の画像を見てください。

この画像の場合、地面から離れる瞬間に上半身まで折れることのない姿勢を保てています。これが腰が折れていたりすると、その力が逃げてしまうのです。それはランニング効率が悪い状態といえるでしょう。

 

接地の場合も同様。
ケニアやエチオピアの選手たちは骨盤の前傾がごく自然に行えます。それは骨格や腱の長さなどの先天的な違いもありますが、日常生活で培った筋バランスなども影響をしていると考えられます。

特徴を生かすフォームになったのか、意識しているのかは別にして、彼らだから出来ることであると言えます。

 

 

一方、日本人は重心が後ろの方が安定する傾向があります。これは先に触れたように骨格や生活習慣が大きいでしょう。そのため距骨の真下辺り(踵骨の前側・土踏まずの後ろ側辺り)での接地が安定するのです。
長い時間動き続けるような場合には、この方が楽に動けます。その反面、速さという面には少し弱くなるかもしれません。ウルトラマラソンのような長時間競技で日本人が世界記録を持っていることは、その裏付けとして考えることができるかもしれません。

 

 

ただ身体の可動域やトレーニングによって筋バランスを変えていくことに成功すれば、フォームを変えることはできます。いや、変わりますという表現の方が正しいでしょう。大迫傑選手などはそれがうまくいった例ではないかと思っています(もともと走り方は違いましたが)。

 

 

接地をしたときの骨盤の角度や重心の位置などが変われば、接地のポイントは自然と変わります。
重心の下あたりで身体を捉えるような感覚で、かつスピードを殺さない接地となれば、おのずと足の中心からやや前の方が地面につくはずです。

 

 

その瞬間に頭で作ったフォームではなく、連動性や可動域が変化することで自然と出てきたフォームがフォアフットになるのであれば、あなたが狙った動きに変わっていく可能性は大いにあります。

 

目先でなく、本質から変える。
形を作るのではなく、身体を作る。

 

そういう取り組みをしてみてください。