いろいろ起こる中盤。

「理想の姿」に向かって共に歩むパーソナルトレーナー、相支走愛(神戸)の野見山健治です。

  

ウルトラのマラニックだけあって、簡単には終わらない振り返り。昨日の続き。

 

前半は今の状態の中ではかなり上出来な走りをしていた(参考記事:生を感じた前半)。
20時を過ぎ、真っ暗の(たぶん)海岸線をひとりで淡々と走る。この時点で自然と進めるペースは、15秒ほど落ち6分30秒/kmくらいになっていた。

 

先ほどのエイドでお世話になった3名のボランティアの方が、車で追い抜いていく。それを手を振って見送る。また一人きりである。

 

 

多少の上り下りはあるものの、基本的には平坦。見通しが非常に良いので、車が近づくと数百メートル先でもわかるくらい。
星空がきれいなので、ヘッドライトを消してみた。

 

月は出ていなかったが、その分小さな星も見える。流れ星さえ見えた。ゆっくり流れる流れ星だった。

「今願うなら何だろう?」

 

 

守りたいもの、達成したいこと、欲しいもの…いろいろと思いを巡らせた。
でも今は、完走することというのが少しずつ現実味を帯びてきて、「完走したい!」それが願いに変わりつつあった。

 

 

それにしても海岸線は罪深い。
景色が変わらない。というか、景色は見えないけれど(笑)コースに変化もなく自分が進んでいるかもわからなくなってくる。
私はペース感覚はある方。時間の感覚もある程度あるつもりだった。
 

しかし、わからない。進んでいない気さえしてくる。
1kmがやたらに長く感じる。時計を見て「まだ300m??」と感じることが何回あっただろう。

 

ペースこそそこそこ保てていたが、もしかするとこの50km辺りで一度心が折れかけていたのかもしれない。

 

いろいろと起こり始める

この辺りも日中は景色を楽しんだりできるのだろうけど、夜だと何があるかもわからないし人もいない。
楽しみはとにかくエイドのみ。そして誰かに追いつくこと。もはやマラニックからかけ離れつつあった。

57~8kmくらいだっただろうか、光が見えてきた。エイドだ!今度こそエイドだ!

着くやいなや、雑炊をよそってくださった。温かいご飯が身体にしみる。魚介が美味い。塩加減がたまらない。
私が最後のランナーなので、遠慮なく飲み物も補充をさせていただいた。勧められるがままにコーラや飲み物もいただく。
お菓子もいくつかいただき非常食としてバッグにストック。本当に感謝!

 

 

そうこうすると寒く感じていることに気が付いた。待っているだけのボランティアの方、寒い中本当にありがとうございます。

 
そういえば自分はまだ半袖だった。ここまでは半袖で行けるだろうと思っていたのだった(後で調べるとこの時間で12~13度くらいはあったようだ)。
立ち止まると寒いが、動けば大丈夫そう。夜中はかなり気温が下がるだろうから上着は温存したい。このままいくことにした。

 

 

食べて飲んで休んで、お話も出来て元気になった。

 

しかもエイドについたときに、一人のランナーが駆け出していくのが見えていた。前のエイドでは「30分くらい前」と言われていたが、ついに尻尾を掴んだのだ!(誰のだよ)

 

 

元気100倍、アンパンマンである。

 

 

ノリノリで駆け出す。60km。駆け出せるんだと自分で驚く。思いのほか動く身体で調子に乗るが、そう長くは続かない。

 

 

坂道である。しかも猛烈な上り。
エイドを撤収して抜き去っていったスタッフの方の車が遥か上に見える。

 

「あの道と分かれてたらいいなぁ…」

 

なんて思ったが、そんなはずもなく上る。歩きを使った。

 

 

傾斜が緩くなると走り、きつくなると歩きを入れて足も温存しながら進む。
そんな時だった。

 

 

ゴリッ。

 

「やっちまった!」

左の足首をひねってしまった。痛い。
まだエイドスタッフの車を見送ってから数分くらいしか経っていない。電話でリタイアを伝えようかと考えた。

 

 

ここまでか。

 

諦めるのか。

 

 

周囲には座る場所もなさそうで、少しでも休める場所を探すために一度踏みしめてみる。
 

あら?
 

痛くない?

 

違和感はあるが、捻った度合いに対して痛みがない。アドレナリンが出ているからなのか、軽度で済んだのか。
少し走ってみる。

 

行けそうだ。

もうちょっとやってみよう。

 


もうすぐ夜も夜になってくる。すでに島内のバスは終わっているだろう。車も通らない。つまり助けはない。この時点で朝まで耐えることはほぼ確定した。完全に歩いてしまった時のために上着はまだ使わないことにした。

 

  

坂道を乗り越えて走り続ける。暗闇にも、木々の中から時折聞こえる「何か」が動く音にも慣れてきた。
身体も問題なく動いている。

 

ここで次なるトラップ。
疲労による判断力の低下に加えて、夜間ということもあり緩やかなカーブなどに気が付かないのである。地図上では右に曲がっているようだったので、距離を頼りに広そうな交差点で曲がった。

 

しばらく行くと、明らかに暗さが2段階くらい増してコースから外れた疑惑を抱く。
しかし、来た道を戻りたくはないくらいの距離をすでに進んでいた。かといって、コースから外れていたら話にならない。頭の中で整理をする。
 

 

正解が分からない。現在地も見失った。

 

迷った。コースロスト。

 

 

まさか山でもないロードで迷うことになろうとは。しかも現在地もわからないほどに。
本来なら戻るのが正しいのかもしれないが、少し進むことにした。車の明かりが遠くに見えた。暗いからこそできる技。ひとまずそちらに向かう。

 

運のいいことに、神社と郵便局を見つけた。目印さえ見つかれば大丈夫。
どうやらぐるっと回ってしまっているようだった。正解と思われるルートを目指し、しばらく進む。

 

この流れで足取りは明らかに重くなった。確信が持てないまま進むのは、エネルギーを浪費するようだ。改めて気持ちの大事さを感じた。

コンビニを見つけて、身体は甘いものを求めたのでアイスを購入。この寒い中、半袖でアイスというチョイス(笑)

 

広い道路に出て、次の町まで3kmという表示を見て一安心。気持ちが落ち着いたことで、また走れるようになった。
歩きながらアイスを食べたせいで体温は下がり、寒く感じたので少しペースを上げてみた。それもこれも経験である。

 

 

無事に元のコースに戻ることができ安堵。地図と照らし合わせると約5km余計に走ってしまったようである。自分ったらなんて欲張り。少し気が早いおかわり。
(ちなみに最初に曲がった道を曲がらずに直進をしていれば正解だったようだ。緩やかな右カーブに気が付かずすでに曲がっていた模様)

 

 

手元では80kmを超えてきた。時間はそろそろ日付を跨ごうとしていた。
10時間くらいで半分の距離を超えている。残りは12時間くらい。理想には遠いが上出来である。ただ明らかに脚が動かなくなってきた。

 

筋肉痛のような状態はすでにひどくなっている。ただ急性のひねりや炎症とは違うので動くことはできる。マメなども無さそうだ。それなら動ける。
 

動けるはずなのだ。

 

だが、動かない。ペースは8分台/kmに入ることも多くなってきた。そのペースに落ち込むと時間内完走はかなり厳しい。体温の低下も懸念。それでも今出来ることは一歩ずつ歩を進めることのみ。

 

 

広い道路を進む。この安心感は一度迷ったことでさらに大きく感じるようになった。
大きな道路を地図でも道路表示でも確信をもって曲がった。するとまた道が狭くなってきた。

 

迷ったことで過敏になっている。不安が襲ってくる。
「また違うのか?」

 

 

でも今回は分岐はほかになかったはず。大丈夫。きっと大丈夫。言い聞かせながら進む。
不安は拭えないままだ。さらには下りに入るともう下り坂が嫌いで仕方なくなる(笑)足のダメージが大きすぎるのだ。
心身にダメージを蓄積しながら、なんとか進むと…

 

また峠道。

 

その中腹に人が見えた!

こんな時間に、外を一人で出歩く人はおそらくいないだろう。ということは、きっと参加者だ!歩いているようだ。

 

ゆっくりなりに走っている自分は、次第にその差を詰めて追いついた。ゼッケンをつけている。参加者だ。
声をかけた。年配の男性。かなりしんどそうだ。「行けるところまで行く」。そんな言葉だった。

 
気持ちが強い。私も負けずに先に行くことにした。(この辺りに自分の余裕のなさが表れている…)
もう数キロ先のエイドを心の頼りに。

 

 

平坦でも7分台をキープするのでやっと。ただ他のランナーを見られた安心感とこの先のコースは迷わなそうだということで自信をもって進めるようにはなった。

 

正直このあたりの記憶は薄い。ただただ走る動作をしていただけだからだ。自然を感じるのにも慣れ、景色にも変化はない。しんどいのもずっと変わらない。でも苦しみながらも進めた一歩は確実にゴールに近づくのだ。動き続けられる限りはやってみよう。

 

しばらくすると次なるエイドに無事にたどり着いた。その瞬間に次のランナーにも追いついた。最後尾ではない安心感も加わった。

 

 

画像は取り忘れたが、ここではインスタントラーメンも作ってくださっていた。深夜にもかかわらず準備をしてくださることに感謝。温かいものはありがたい。同時にたどり着いたランナーはそれを食べていた。
私もそちらを欲しいと思ったのだけれど、受け取ったのが「いの焼き」だったのでそちらを食べることにした。さっきと違って温かい。美味しい。これで十分だ。
さすがにちょっとだけ胃にダメージを感じ、食欲は控えめだったが食べられるからまだ大丈夫。

 

酸味を欲していた体に、柑橘系のジュースが染みた。ありがとうございます。

 

本来ならこのエイドが何キロ地点なのかを伺って、距離のロスを具体的に把握。やはり5km弱。
この先には大きな峠もないということを確認してリスタート。

 

 

ちょっと休んで食べたことで体がまた動くようになったきた。ペースも回復。なんて単純な体だろう。

 
今までウルトラマラソンでは村岡の強烈な坂道(蘇武岳)などを戦略的に歩くことはあっても、疲れたという理由で歩くことはなかった自分がすでに何度か歩きを入れている。これも新しい感覚だ。
ただ歩いて休めると、ペースが回復させられることにも気づいた。

 

終盤にこの感覚がさらに生きてくることになるとは思ってもいなかった。

 

 

時間はすでに深夜。次の目標は夜明けを迎えること。
捻った足首も、当初不安だった脚も違和感はなかった。ただただ疲労感と筋肉の痛みだけを感じながら動くことを決めた。

 

この先、また迫ってくる危機を知ることもなく…

 

 

というわけで、後編に続く。